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六.旅立
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独立戦争に勝利をおさめたジグルは、同族の裏切りにより戦死したヴィゼルにかわり、一将でしかなかったカリーナを元首として、その後交渉の席に着いた。 元首カリーナが他国の前に出たのはそれが初めてであったが、カリーナはヴィゼルに引けを取らないほどの威厳を纏い、アーベンに足元を見られることもなく交渉を成立させた。つまり、アーベンは今後の対等な関係と交易を条件に、ジグルの完全な独立を認めたのである。 これを以て戦争は終決、ジグルという民族国家が成立。 戦中よりジグル独立を支持してきた北方の国々はもちろん、アーベン以南の国々もジグルとの国交を求めてきた。それに対しジグルは、大小の幅はあれ、どの国とも国交を持ち、交易を行なった。しかしジグルは、自分たちの領地に他国の人間をやすやすと入れることだけはさせなかった。逆もまた然り。事実上の鎖国政策を取ったのだ。 そのような政策を取った背景にはジグルの政治体勢が成熟していないことがあった。 ジグルはアーベンの支配下にあった当時、全く自治を行なっていなかったわけではない。アーベンの支配下にあった二百年間は、最高位祭司が事実上の元首として存在していた。が、【月の印を抱く者】が現れ、戦争が始まってからというもの、急速に軍の力が増し、ヴィゼルの下では祭司より軍部の方が力を有するようになっていたのである。 このような経緯を考慮し、元首カリーナは祭司と軍部の両輪による共和制を打ち建てた。理想や理念を語ることは簡単である。が、実際に機能させるには膨大な時間と労力を費やすことになる。そのためカリーナは、自らの脇に最高位祭司と将軍ダウバを据え、自らの求心力で以て数年の内に共和制を定着させようと考えた。 それには他国の理想理念が邪魔だった。基盤を作り上げてからの斬新な思想は政治や文化へのよい刺激となるが、基盤ですら出来上がっていない時点での無数の思想は、人民を困惑させ、纏まりを欠かせる恐れがあった。 今のジグルが纏まりを欠けば、再びどこかの国に支配されることは目に見えて明らかだった。アーベンが折れ、他国が容易くジグルの独立を認めたのは、皆どの国も、ジグルの命をも投げ出すその民族としての纏まりに脅威を感じたからである。ジグル鉄という良質な鉄鋼脈と、ジグル剣を作り出せる技術を持つこの土地は、出来ればどの国も手中に治めたいところなのだ。 カリーナはジグルという国を他国に引けを取らないだけのものにするために、自分自身を利用した。ヴィゼルから【月の印】を継承し、月の意志により事を進めていると人民を納得させた。彼女の両脇をかためた最高位祭司と将軍ダウバの役割ももちろん大きかったが、なりより彼女の【月の印を抱く者】としての存在感が大きかった。カリーナは、皆が求める【月の印を抱く者】を演じきったのである。それまでの一将としての形を潜めさせ、誰をも平伏させてしまうだけの威厳をその身にした。祭司の衣装を纏い化粧も施し、ヴィゼルに負けないほどの美貌も手に入れた。戦いの終焉と共に抱いたとされる、赤色の【月の印】を常に隠し、その神秘性を高めた。 しかし彼女は、髪を伸ばすことだけはしなかった。戦争が終決した時短かった髪も、月日を重ねるにつれ長くなったが、カリーナはのばすことなく肩の上で常に切りそろえた。それだけが、彼女がヴィゼルを踏襲しなかったところであった。 そうして、【月の印を抱く者】カリーナの下、三年近い月日を重ねたジグルは、古びた慣習や主義主張を脱ぎ捨て、新しい国として、今まさに生まれ変わる基盤を築き上げたのである。 |