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四.宴
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じっと前を見据えていた。 この場所に腰を据えてから、ただ前方に視線を走らせていた。 身動ぐことは、億劫だった。目先をかえることは、億劫だった。 ただ前を見ていればよいのだ。背筋を伸ばし、鋭い眼光で、感情を表に表さず、全てのものを平伏させる。 他の動作は邪魔なものでしかなかった。無駄なものでしかなかった。 今の自分にとって必要なものは、ただ唯一。 信じること。 「――――」 燃えしきる篝火の傍で舞われる舞。 優美でもあり、猛々しくもある。 踊り子の手にある松明と剣。 それが、頼もしくもあり、恐ろしくもある。 踊り子たちの内に秘めたる情念。 それに心踊らせもし、心苦しくもさせる。 自分にとっては、それら全ての感情が必要。在りと在らゆるもの全てを受けとめることが必要。そうしてその後、私情を抜き取った目で、遍く事柄を見据えなければならない。 それが、自分に課せられた、運命。 「――ヴィゼル様。どうぞこちらへ」 舞が終わりを告げ、場を拍手が覆う中。 背後からそっと声をかけられ、軽く振り返る。 隣に据えられてあった神体の剣が、祭司の手によって持ち出されるのに続いて、ヴィゼルは立ち上がる。 女官の先導に促されて、ゆっくりと場を跡にする。 これから自分は祈祷を行なう。 薄暗い部屋の中で、夜明けまで、ずっと。 宴に列席していた他の者たちは飲み明かすことだろう。友と、仲間と共に、多いに語らい、多いに飲み、決戦前の時を存分に楽しむだろう。 それを羨ましいなどと思う感情は最早忘れた。最早、他の者が行なっている事と同じ事とはどのようなものであったか、想像もつかない。 彼らが何を思い、何を考え、何を夢見ているのか、それすらも、判然とは分からない。 そんな自分を、最早不幸だとも、思わない。 「――――」 なぜ自分でなければならなかったのか。 なぜこの自分であったのか。 それはもう考えないことにしよう。 この道を選んだのは誰? 自分を迎えにきた将軍ニトゥカ? それとも月? いいえ、どれも違う。 選んだのは自分。 この私自身。 【月の印】を抱いたことも、戦争、独立という道も、それに今、決着を付けようとしていることも。 全ては私が決めたこと。 私が選んだ道。 もう迷いはしない。戸惑いもしない。 私は、私の運命を抱き、歩んでいくだけ。 前を見据え、信じる道を行くだけ。 「――――」 ヴィゼルは、目の前の輿に乗る。 ゆっくりと体は宙に浮き、徐に揺れだす。 夜闇の中、移りゆく景色。 自身で動かずとも。 変化を止めることは、この自分であっても叶わない。 願うのは自分。だけど、それは私ではない。 だから。 ヴィゼルはそっと、月を見上げる。 雲間から覗ける、冴々とした姿。 分け隔てなく与えられる、天よりの光。 沁みる光に、ヴィゼルは人知れず目を細む。 (――ただ、ただ、もし本当に、こんな私の願いが月に届くというのなら――) 天にあるは、十三夜の月――。 (ジグルの未来に、栄光あれ、と) それを、祈るだけ。 |